初期のホームページが閉鎖されます。2つの記事、記録として残したいと思います。
最初の学習会記事です。
第1回学習会 2002年8月31日
講演 「精神障害者のおかれている現状と課題」
講師 林 英樹・林精神医学研究所理事長
精神障害者のおかれている現状と課題を学習
第一回人権問題を考える学習・懇談会 NPO法人・地域人権みんなの会が開催
NPO法人・地域人権みんなの会が主催する、第一回人権問題を考える学習・懇談会が八月三十一日、岡山県民主会館で開かれました。前日に岡山放送テレビがスポットで行事案内を流してくれたこともあり、当日参加者は48名となり、地元新聞社の山陽新聞も翌日の記事に掲載してくれるなど、幸先良いスタートとなりました。
学習・懇談会は、林精神医学研究所の林英樹理事長が最新の厚生労働省の資料をもとに、「精神障害者のおかれている現状と課題」と題して、(1)精神障害者の現状、(2)わが国の精神医学、医療の歴史、(3)課題、と柱をたてて、講演されました。
(1)精神障害者の現状
講師は、精神障害について、一般的に名称が精神統合失調症と変更された精神分裂症を想起する人が多いが、痴呆症などの「器質性精神障害」、アルコールやシンナー依存などの「精神作用物質使用による精神および行動の障害」、九つに分類されているということを説明。受療率でみると、精神障害は高血圧性疾患についで多く非常にありふれた身近なものと成っている。精神障害の分野での入院は精神統合失調症が六割を超え、次ぎに痴呆症でこの割合が年々増えてきている現状である。精神障害者数は二〇四万人、その内精神統合失調症患者が七〇万人と推定されている(厚生労働省、H十一年度)。 また、精神病床数の推移を各国と比較して、日本はこの二〇年来、千人当たり二・五?三・〇病床で推移しているが、アメリカ、韓国、カナダ、イタリア、などは大きく減少している。それは、日本での入院患者の七万人余りが社会的入院(受け入れ条件が整えば退院可能)といわれていることと関連する。グループホーム、小規模作業所など社会復帰施設は確かに増えてきているし、精神科診療所数も七五年で千未満であったものが九九年では三千五百を超え、気軽に診療できるようになってきている。しかし、問題は多くある。
(2)わが国の精神医学、医療の歴史
日本では、中世から江戸時代まで、例えば大宝律令(七〇一年)に精神障害者に税の負担軽減や減刑措置が盛り込まれているように、ヨーロッパより比較的寛容で組織的迫害は見られなかった。京都岩倉大雲寺、徳島阿波井神社が代表的で寺社での保護、治療がなされていた。
ヨーロッパでは魔女狩りで、精神障害者をスケープゴートにして火炙り、絞首刑などで迫害してきた歴史を持つ。ルネサンス(十四?十六世紀)時代に魔女狩りはなくなり、フランス革命(一七八九?一七九九年)に患者の人権を考え精神病院を改革する動きが強まり、ピネル(内科医)とその周りの看護師などが患者を鎖から解放するなどの改革を実現させた。
明治維新後、一八七五年に精神障害の最初の公立病院が京都に設置。一九〇〇年に精神病者監護法ができ、「私宅監置」を容認。呉秀三(東大教授)による調査と国会への要請などを通じて、一九一九年、精神病院法が公布されたが、予算不足で遅々として進まなかった。
その後第二次大戦中は食糧不足から餓死、病死者が激増。戦前二万四千床あったものが戦後はわずか四千床となっていた。一九五〇年に精神衛生法が制定され、「私宅監置」が禁止され措置入院、同意入院が規定され、都道府県の精神病院設置が義務付けられた。五〇年代は薬物療法が導入され、民間精神病院建築がブームとなる。
六四年のライシャワー事件(アメリカ大使を精神障害の青年が刺す)に対する米国の要請などにより精神衛生法が改正され、精神衛生センターの設置、通院医療費公費負担制度が導入された。また、八四年の宇都宮病院事件(職員が数名の患者を暴行によって死亡させる)後のWHO勧告などにより、精神保健法が制定されるなど、外的な力により前進した趣が強い。
日本の精神障害者対策の特徴は、私宅監置や同意入院、社会復帰施設がなかなかできないために家族が患者を抱える経済的苦しさの中で作業所などを運営している、など家族に過剰な責任を負わせてきたこと。また、医師の配置でみると、一般病院は患者十六人で一名、精神病院は四十八人で一名、看護士では同じく三人で一名と六人で一名という、一貫した低医療費政策が問題である。精神障害者施設は欧米では九割が公的施設だが日本では民間が八割を占めているなど民間に大きく依存している。福祉の分野はさらに遅れており、安上がりの精神病院への対処という状況をつくっている。
(3)課題
七万人以上いる受け入れ条件が整えば退院可能な社会的入院患者の対策が求められている。社会復帰施設の建設も地域の理解が不可欠であるが、その役割を果たす機能が弱い状況にある。
マンパワーと時間が求められる、不登校、ひきこもり、アスペルガ?障害(自閉症のひとつ)などの対策にかかわる児童・思春期の専門医や施設が圧倒的に不足している、またアルコール依存症、覚醒剤依存症の対策、職場でのメンタルヘルスでの課題など、多様化するニードに応えられない状況が続いている。この克服が重要である。
老人性精神障害の増加にともない、一般病院から転院されてくる患者が急増している。身体合併症をもった痴呆患者は手厚いケア?が必要であるのに、人手の少ない精神病院のベッドに移さざるを得ない仕組みになっている。精神病院への低医療費政策がより負担を重くしている。
精神科救急システムの整備が民間病院ではすすんでいない。二〇〇〇年から緊急の移送することを市町村に義務付けたが、実質はできてない。東京都では、企業が参入して、屈強な人が「ただつかまえて連れてくる」というような状況が生まれている。法だけでなく、その保障としての予算が必要である。
「触法精神障害者の処遇」についての課題では、起訴前鑑定時に簡易鑑定が多すぎること、それは検察官の恣意的な判断が背景にあるではないか、不起訴になった後の措置鑑定に問題はないのか、などと問題提起をし、根本はそういう犯罪が起こらないために、地域医療、緊急医療体制の充実が求められている、と結ばれました。
(4)討論と感想
その後、保健所の役割、病名の変更についての評価、薬物依存症での対処、社会復帰施設の建設と地域の偏見をなくす課題、市民講座的な学習会開催などについて活発な討議が展開されました。
(文責、中島純男)